コウノトリブログ

元飼育員のコウノトリブログ⑫ 今年をふり返って 豊岡市内の野外繁殖について

2024年、兵庫県内の野外コウノトリの繁殖実績は、525カ所で営巣し、420カ所で繁殖に成功(ヒナが巣立ちした)、52羽が巣立ちしました。

写真提供:コウノトリ市民科学  兵庫県加古郡稲美町 4月29日撮影

豊岡市内では、20カ所の人工巣塔と電柱で営巣、16カ所で繁殖に成功して43羽のヒナが巣立ちし、繁殖カ所数、巣立ち数とも過去最高数となりました。
今年巣立ちした全国の個体数(134羽)の約3割は豊岡生まれとなり、繁殖地が全国に広がりつつある現状においても、繁殖の中心地として豊岡市が大きな役割を果たしていることがわかります。
豊岡市内には人工巣塔(営巣可能)が27カ所あり、その内19カ所が繁殖に使われました。豊岡市で繁殖カ所数が多い理由は、「コウノトリ育む農法」に代表される環境に配慮した農業や「生息地保全」の取組み(現在の取組み – コウノトリと共に生きる豊岡)などコウノトリの生息環境の整備が進んでいることと併せ、人工巣塔等の繁殖環境も整っていることが大きいと考えます。
余談となりますが、全国の繁殖地を見ると76%が日本海側にあり、太平洋側と大きな偏りが生じています。日本海側で繁殖している市町の中で複数カ所の繁殖が7自治体、太平洋側は茨城県神栖市だけとなっています。コウノトリの繁殖地が拡大する中、今後、太平洋側にも広がり全国的に均一化するのか興味深いところです。

今年も巣塔では様々なドラマがありました。いくつかご紹介いたします。
【湯島(ゆしま)巣塔】
城崎町湯島の人工巣塔(旅館あさぎり荘の庭の人工巣塔)では、2022年に戸島電柱巣で繁殖したJ0122(雄親)×J0043(雌親)ペアが繁殖しました。
J0122が子育て中の6月上旬にケガで一時収容され心配しましたが、数日後には解放され直ぐに子育てに参加して無事3羽のヒナを巣立たせました。

湯島巣塔 左:ふ化後3日  右:写真提供 コウノトリ市民科学 ふ化後12日

【赤石(あかいし)巣塔】
赤石巣塔は、これまでに「元飼育員のコウノトリブログ③」「元飼育員のコウノトリブログ⑦」で取り上げてきました。
赤石巣塔は、4月下旬に第1クラッチ(最初の産卵)でふ化したヒナが数日後に死亡し、再度産卵した第2クラッチ(2回目の産卵)でふ化、巣立ちしました。第2クラッチの推定は5月30日、ふ化推定が6月28日となり、7月、8月の連日「真夏日」「猛暑日」が続くなかでの子育てとなりました。撮影した7月3日の豊岡市は最高気温35.4度の猛暑日。親鳥はヒナに日陰を作るなどかいがいしく子育てしている様子を見ると、思わず「ガンバレ!」と応援したくなります。

日陰を作っている ふ化後3日 5月29日撮影  ヒナへの給餌 ふ化後47日 8月14日撮影

そして8月27日に2羽のヒナが無事巣立ちました.

8月29日巣立ちした幼鳥の観察に出向きました。
巣塔近くで活発に採餌する幼鳥の姿が見られ一安心しました。観察中に親鳥が舞い降りると、幼鳥は親鳥に近づき盛んに鳴いて餌乞いをしています。親鳥もすぐに餌を吐き出し、幼鳥は盛んに食べていました。幼鳥は、このような生活をしばらく続け、次第に独り立ちします。幼鳥は、約一カ月で赤石巣塔付近から見られなくなりました。親元を離れ同じ世代のコウノトリと行動を共にしていると思われます。

左:巣立ち後、田んぼで採餌   右:親鳥から餌をもらう  ふ化後62日 8月29日撮影

【福田(ふくだ)・上野(うえの)巣塔】
福田巣塔(昨年に引き続き)、出石町の上野巣塔では、4羽のヒナが巣立ちをしました。豊岡市では、4羽が巣立つのは珍しく、3例目となります。
豊岡市で一つの巣から巣立ちした個体数の平均は、2.6羽となり全国平均と同じでした。以前、豊岡での繁殖は、繁殖している巣塔間の距離が近く、縄張りが重複し餌が十分に取れないため、一巣からの巣立ち数は少ないと言われていました。しかし、今年は4羽巣立ちした巣が2か所になるなど、巣塔間の距離の近さが子育てに大きく影響しているとは言えないと考えられます。

福田巣塔 ヒナへの給餌後すぐに飛び立ち採餌へ 4羽を育てるのは大変です ふ化後44日 5月24日撮影

【水上(むながい)・野上(のじょう)巣塔】
出石町の水上巣塔は、2019年から4年連続で繁殖に成功しましたが、2023年突如それまで繁殖していた巣を離れ、近くの電波塔で造巣をはじめ産卵に至りませんでした。原因が判らず心配していましたが、今年は以前繁殖に使用していた人工巣塔で繁殖し、3羽が巣立ち一安心しました。

水上巣塔 ふ化後43日 6月11日撮影

残念なことは、2008年から繁殖していた野上ペアの雄親J00014月上旬に死亡しているのが発見されたことでした。J0001は、2006年に初めてソフトリリース(放鳥方法説明 ソフトリリース①参照)した個体で、私にとって大変苦労してソフトリリースした思い入れの深いコウノトリでした。私の市役所での最初の仕事がJ0001の回収となり、個体を確認したときは大変残念な思いでした。
野上巣塔は、雄J0274×雌足環ナシが新たなペアとなりましたが、ふ化に至らず残念な結果となりました。

2024年、親鳥の死亡(J0001野上雄親、J0057森井雄親)が2件ありました。また、伊豆巣塔の雌親J0296が足を骨折し収容されています。
2025年は、事故の少ない年でありますよう切に願います。

放鳥方法の説明
●ハードリリース  個体を放鳥場所へ移動しすぐに開放する方法
●ソフトリリース  放鳥場所に一定期間飼育し、その場所に馴らしてから放鳥する方法
①仮親がヒナを育て、巣立ちと共に幼鳥だけを放鳥
②放鳥場所に仮設ケージを設置し、放鳥個体を数カ月間飼育して放鳥
繁殖に係るデータの一部参照
●日本コウノトリの会会報誌 「コウノトリと共に」 2024年4号

●兵庫県立コウノトリの郷公園「全国の繁殖状況一覧(PDF)

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