コウノトリブログ

コウノトリ普及推進員のブログ㉒ 今シーズンの繁殖 -全国編-

暦の上では秋となりましたが、まだまだ暑い日が続いています。みなさん、いかがお過ごしですか。
前回のブログでは、「猛暑の中での子育て」と題し、最高気温が39度を超える中でのコウノトリの子育ての様子を書かせていただきました。
8月下旬となり、野外コウノトリは、あと1カ所を残して巣立ちを終えました。
日本コウノトリの会」・「コウノトリ市民科学」や「コウノトリ市民レンジャー」のご協力を得て、現在わかっている野外繁殖の状況をまとめました。

今年新たに繁殖した石川県珠洲市での繁殖の様子 2025年8月15日撮影 写真提供:コウノトリ市民科学

《2025年の野外繁殖状況》
今シーズンは、全国15府県で営巣・産卵がありました。新たな繁殖地となった愛知県(愛西市)は、電力会社の変電施設内の高圧鉄塔で営巣したため卵は救護され、兵庫県立コウノトリの郷公園(以下郷公園)へ托されました。郷公園に持ち帰られた卵は、3羽がふ化・成育し、適切な時期に野外へ戻されるとのことです。
無事に巣立ちした繁殖地点は、13府県、31市町、54カ所で145羽が確認されています。(9月上旬に巣立ちが見込まれる1地点2羽を含みます)

No 県名 市町村数 地点数 巣立ち個体数(見込み2羽含む)
1 新潟県 1 2 4
2 栃木県 1 1 3
3 茨城県 4 5 18
4 石川県 4 4 8
5 福井県 4 5 12
6 京都府 2 7 20
7 兵庫県 6 18 48
8 鳥取県 3 4 11
9 島根県 2 4 11
10 徳島県 1 1 2
11 香川県 1 1 2
12 広島県 1 1 4
13 佐賀県 1 1 2
合計 13 31 54 145

●無事に巣立ちした繁殖地点の集計表

今年生まれで野外へ飛び立つ幼鳥数(救護個体等含む)は150羽以上と予測され、9月には野外個体数が約600羽になると見込まれます。
野外コウノトリの個体数は、指数関数的に増加していると言われます。2005年に放鳥開始を開始して20年を迎える今年、野外個体数は500羽に到達しました。
今後順調に個体数が増加すれば、3~4年後には1,000羽を超えると予測されます。
コウノトリ野生復帰に当初から携わる者として、1,000羽という夢物語だった個体数の実現に向け力添えできればと思います。

島根県雲南市大東町での繁殖の様子 2025年5月31日撮影 写真提供:コウノトリ市民科学

今年の野外繁殖のデータ(注1)を整理すると特徴や課題が見えてきます。
注1:野外繁殖のデータは、同ペアが別々の地点で繁殖した場合、それぞれを1地点としてカウントしています。また、近親婚4例は、データから除いています。

《特 徴》 繁殖地の偏り
全体の3/475%)に当たる51カ所の繁殖地点は、日本海側に偏っている特徴があります。
また、太平洋側での繁殖地点は、同一県内で1カ所(日本海側の繁殖地点の多くは、複数カ所の地点で繁殖している)と広がりの少なさも特徴です。
その中で、霞ケ浦を有する茨城県は繁殖地点が6カ所と、兵庫県、福井県、京都府に次いで4番目となり、唯一太平洋側で複数カ所が繁殖している県です。
日本一大きな湖・琵琶湖のある滋賀県は、コウノトリの飛来数は多いものの営巣の実績はありません。水辺面積の大きさが繁殖に重要というわけではなさそうです。
なぜ、繁殖地が日本海側に偏っているの?なぜ、太平洋側の茨城県は、繁殖地点が多いの?など、まだまだコウノトリについてわからないことが多いです。

京都府京丹後市市場での繁殖の様子 2025年6月30日撮影 写真提供:コウノトリ市民科学

《課 題》 不適切な場所の営巣
電柱等の危険な場所や携帯電話電波塔など管理が難しい場所での営巣が、全体の1/4(約26%)に当たる18カ所となっています。
電柱の営巣は、停電やコウノトリのケガ・死亡事故のリスクが人工巣塔と比べて高くなります。
また、携帯電話電波塔は高さ約40m(人工巣塔は約12m)の頂上に営巣するため、足環装着等の管理作業が難しいです。
このように、コウノトリと人にとって、不適切・不都合な場所での営巣は、できるだけ避けるべきと考えます。
初めて繁殖する地域では、人工巣塔のように営巣に適した場所がなく、電柱等で繁殖を継続する場合があります。しかし、翌年電柱巣の代わりに人工巣塔を建てても、コウノトリが使わないケースが見られます。
コウノトリは、一度繁殖した場所に固執し、電柱巣付近に人工巣塔を建てても容易に移動しません。全国に繁殖地が広がる中、電柱から人工巣塔へ移動させる手法の確立は、人とコウノトリが共生していく上で急務な課題の一つと考えます。

鳥取県八頭町での繁殖の様子 2025年5月22日撮影 写真提供:コウノトリ市民科学

ますます個体数の増加が予測されるコウノトリと共生するためには、コウノトリが教えてくれている現況データを読み解き、コウノトリの保全に効果的な対策を施す必要があります。
1年で100羽以上のコウノトリが増加している今、改めて環境整備の重要性が問われています。急激にコウノトリの餌場を拡大させることは難しいですが、人間の知恵を生かし、現状に対処しながらコウノトリの生息環境を整備することが求められます。

豊岡市では、「コウノトリも住める環境は、人が住むにも良い環境である」という考えを基本に、人とコウノトリが共に生きる環境の創出に向け、取り組みを続けていきます。 

 

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